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高松高等裁判所 平成4年(ネ)120号 判決

主文

一  本件控訴を棄却する。

二  控訴人の当審で追加した請求を棄却する。

三  控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  控訴人

1  原判決中控訴人敗訴の部分を取り消す。

2  被控訴人は、その店舗店頭の正面看板、同店舗の袖看板、同店舗店頭の立看板、同店舗内の看板、その他の広告宣伝用看板、同店舗の壁面、その使用する車両等に原判決添付第二ないし第四目録記載の各標章(ただし、同第三目録記載(ア)及び(ウ)を除き、第四目録は本判決添付第四目録に改める。以下の第3ないし第5項についても同じ。)を使用してはならない(別紙第四目録記載(1)及び(3)ないし(6)の各標章についての請求は、当審で追加した請求である。以下の第3ないし第5項についても同じ。)

3  被控訴人は、その加盟店をして、その店舗店頭の正面看板、同店舗の袖看板、同店舗店頭の立看板、同店舗内の看板、その他の広告宣伝用看板、同店舗の壁面、その使用する車両等に原判決添付第二ないし第四目録記載の各標章を使用させてはならない。

4  被控訴人は、原判決添付被告店舗一覧表(一)記載の各店舗店頭の正面看板、同店舗の袖看板、同店舗店頭の立看板、同店舗内の看板、その他の広告宣伝用看板、同店舗の壁面、その使用する車両等に使用している別紙第二ないし第四目録記載の各標章を抹消せよ。

5  被控訴人は、その加盟店をして、原判決添付被告店舗一覧表(二)記載の各店舗店頭の正面看板、同店舗の袖看板、同店舗店頭の立看板、同店舗内の看板、その他の広告宣伝用看板、同店舗の壁面、その使用する車両等に使用されている原判決添付第二なし第四目録記載の各標章を抹消させよ。

6  被控訴人は、控訴人に対し、金六〇〇〇万円及びこれに対する昭和五八年二月一七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

7  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

8  右第6項につき仮執行宣言

二  被控訴人

主文第一、二項と同旨

第二  当事者の主張

左記のとおり付加、補正するほかは、原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する。

(原判決事実摘示の補正)

1  原判決添付第四目録を本判決添付第四目録に改める。

2  原判決書九丁裏二行目から同七行目までを削除する。

3  同一三丁裏五行目の「(二)及び」を削除する。

4  同一六丁表六行目の「一項の」から「前提とし、同」までを削除する。

5  同一七丁裏八行目を次のとおり改める。

「2 同2のうち、(一)及び(二)の事実を争い、(三)の事実を認める。小僧寿し本部が商標権の使用権を有するのは登録商標と同一の商標のみであり、その類似商標には使用権を有しない。ところで、小僧寿し本部が昭和四八年一月二七日に商標登録を出願し、昭和五一年一二月一六日に登録された商標登録番号第一二四二三一五号の人物図柄商標は別紙第四目録記載(1)の標章であり、同(2)の標章(原判決添付第四目録記載の人物図柄商標)は、同(1)に類似するものとして、同商標の連合商標として昭和六〇年五月三〇日に登録されたものである。すなわち、両商標は、類似商標であって同一商標ではない。したがって、右(2)の商標については、これが登録されていなかった昭和六〇年五月二九日までの期間については、登録された商標権の使用権の範囲内の使用であるとの正当行為の抗弁は成り立たないし、同目録記載(3)ないし(6)の人物図柄標章についても、同(1)の商標とは類似するものの異なるものであるから、同抗弁は成り立たない。」

(控訴人)

一  当審で択一的に追加した不当利得返還請求の請求原因

1 控訴人は、引用にかかる原判決事実摘示のとおりの本件商標権を有する。

2 被控訴人は、本判決添付第五目録記載の標章を、その店舗店頭の正面看板をはじめとする広告宣伝看板、同店舗の壁面、その使用する車両に使用して、その持ち帰り寿し販売店舗において商品寿しを自ら製造・販売し、また、被控訴人のフランチャイズチェーン加盟店をして右標章を同様に使用させ、その持ち帰り寿し販売店舗において商品寿しを製造・販売させている。

3 被控訴人が使用する右標章は、そのうち普通名詞「寿し」を除いた要部「小僧」を本件商標と共通にし、外観・称呼・観念を共通にする本件商標の類似商標である。

また、被控訴人が標章を使用していた商品寿しは、本件商標の指定商品に属する。よって、被控訴人の右標章の使用は、控訴人の本件商標権の侵害である。

4 被控訴人は、商標権者である控訴人から本件商標の使用許諾を受けることなく控訴人の本件商標を冒用し、昭和五五年から昭和五八年二月まで、持ち帰り寿しを販売したが、その売上げ高は、直営店の売上に限定しても合計三二億四〇〇〇万円であるところ、被控訴人が控訴人から本件商標の使用許諾を得ておれば、控訴人に対し通常支払われるべき使用料相当額は右売上額の二パーセントにあたる金六四八〇万円を下ることはない。被控訴人は控訴人の商標を無断で使用することにより六四八〇万円の利益を得、その結果、控訴人は、右使用料相当額の損失を被った。

5 よって、控訴人は、被控訴人に対して右の内金六〇〇〇万円の不当利得金の返還を求める。

二  当審で択一的に追加した「準事務管理」を原因とする利得の引渡請求の請求原因

1 右一項1ないし3に同じ。

2 被控訴人は、本件商標権の指定商品に属する商品寿しについて、本件商標の権利の範囲に属する本判決添付第五目録記載の標章の使用及び使用の許諾(ないしは禁止権の解除)をする権限のないことを知りながら、昭和四七年五月一日の被控訴人の設立以来右標章を自ら使用し、もしくはその傘下のフランチャイジーたる加盟店に使用を許諾した。

3 被控訴人が、控訴人の本件商標を冒用して商品寿しを販売・譲渡したことは、権限なくして、本件商標の管理・許諾料の徴収・信用の付加・商標価値の増大といった控訴人の事務を、その権限のないことを知りながらほしいままに自己のために管理したことになるから、控訴人の本件商標の「準事務管理」をしてきたことになる。

4 そこで、控訴人は、被控訴人に対して、被控訴人の使用料相当額の利益並びに被控訴人が収受した果実たるそのフランチャイジーである加盟店一〇六店から収受した使用料の引渡を求め得るものである。

5 昭和五五年から昭和五八年二月までの間の被控訴人の売上は合計三二億四〇〇〇万円であり、商標使用料は売上額の二パーセントを下らないので、被控訴人自身の使用料相当額は六四八〇万円であり、またそのフランチャイジーたる加盟店一〇六店から収受した額も右同額を下回ることはない。

よって、控訴人は被控訴人に対し、右の内金六〇〇〇万円の引渡を求める。

(被控訴人)

右の一項1の事実を認める。同2のうち、被控訴人が原判決添付第二及び第三目録記載の各標章を控訴人主張の態様で使用していることは認める。同3、4及び二項の2ないし5の事実を争う。なお、被控訴人による原判決添付第二、第三目録記載の各標章の使用が、本件商標権を侵害しないことは、原判決事実摘示中の被控訴人の主張のとおりである。

第三 証拠(省略)

理由

一  当裁判所も、控訴人の被控訴人に対する原判決添付第二目録記載の各標章、同第三目録記載(イ)、(エ)、(オ)の各標章、別紙第四目録記載の各図形標章の使用差し止め及び抹消を求める各請求(控訴人が当審で追加した別紙第四目録記載(1)及び(3)ないし(6)の各図形標章の使用差し止め及び抹消請求を含む。)並びに損害賠償請求はいずれも理由がないから棄却すべきものと判断するが、その理由は、次のとおり改めるほかは、原判決理由説示のとおりであるから、これを引用する。当審で取り調べた証拠も右認定、判断を左右するに足りない。1 原判決書二六丁表八行目「他方では」から同所九行目「ときは、」までを「それが同時に被告が製造し販売する」に改める。

2 同二九丁裏八行目「図形のみ」を「図形」に改める。

3 同三〇丁表一〇行目、同丁裏二行目、同四行目の「被告標章3」をいずれも「被告標章3のうち別紙第四目録記載(1)の標章」に改める。

4 同四〇丁裏一行目「構成されており、」の次に「株式会社」を付加する。

5 同四四丁裏一〇行目「しかし」から四五丁裏三行目終りまでを「しかしながら、被告が商号中の「小僧寿し」の部分を太く、大きく表示したことに被告標章3に「小僧」の称呼及び観念を生じさせることの意図が含まれていると認めるに足りる証拠はなく、右は単なる憶測にすぎないものといわざるを得ない(ちなみに、被告標章3の図柄は、その外観から江戸時代から昭和にかけて存在した「商家の年若い男子の雇人である小僧」を観念させるものではない。)から、右意見は採用することができない。」に改める。

6 同四六丁裏一〇行目「前記四4(二)のとおり」から四七丁表二行目「小僧寿しチェーンは」までを「原本の存在及び成立に争いのない乙第五号証及び証人山木益次の証言によると、小僧寿し本部及び被告が右標章を使用し始めたのは早くても昭和四七年二月以降であることが認められ、前記四1で認定した事実のとおり、小僧寿しチェーンは、原告の営業とは全く無関係に独自の力で」に改める。

7 同四九丁裏五行目から五〇丁表三行目までを、

「前掲乙第一九六、二〇三、二〇五号証、成立に争いのない甲第一〇九号証の一、二によると、小僧寿し本部は、別紙第四目録記載(1)の標章について、商標登録の出願をし、これが本件商標と類似しないものとして昭和五一年一二月一六日に登録番号第一二四二三一五号をもって登録されたものであること、その後、昭和六〇年五月三〇日に同目録記載(2)の図形標章が、同(1)の商標の連合商標として登録番号第一七七〇三五六号をもって登録されたものであることが認められる。ところで、右両標章は、いずれも丁髷頭にねじり鉢巻きをしめ、胸に晒を巻き、着物の上に絆てんをはおり、前掛けをして高下駄を履いている人物が、前掛けの前で両手を揃え、お辞儀をしている姿を正面から描いた図形という点で同一であり、互いに酷似しており、一見したところでは人物の表情にわずかに違いが認められるだけであり、更に子細に比較すると、右手の五指や足指の爪及び半纏の脇の皺等に若干の違いを見い出しうる程度の差があるにすぎない。そうすると、登録商標の現実の使用という観点から見ると、このような微細な表現の違いによって、右両標章を異なった商標の使用とみるべきではなく、同(2)の標章の使用は、登録された同(1)の商標の使用権の範囲内にあるものというべきである。また、別紙第四目録記載(3)の標章は同(2)の標章の背景に矢羽根様の模様を付したもの、同(4)の標章は同(2)の標章の背景に四角形とホチキスの針の形をした括弧様の囲いを付したもの、同(5)の標章は同(1)の標章の前掛け部分に「小僧寿し」の文字を記入したもの、同(6)の標章は同(2)の標章に円弧と波様の模様とハッピーとチップの文字を上下二段に分かって付したに過ぎないから、これらの使用は、いずれも登録された同(1)の商標(同(2)の標章が連合商標登録されてからは同商標を含めて)の使用権の範囲内にあるものというべきである。

なお、右(5)の標章が、右(1)の商標の前掛け部分に「小僧寿し」の文字を記入したものである点については、右の「小僧寿し」の部分が普通の書体をもって表示され、特に一般需要家の注意を惹くに足る書体ではなく、しかも、右(1)の商標の前掛けの中に書き入れたことに表示方法としての特異性は認められない(二個の標章を一個にまとめて表示しただけでそれを並列して表示することと比べ両者に特段の変わりはない。)から、右(5)の標章を以って、小僧寿し本部又は小僧寿しチェーンの略称である「小僧寿し」を普通に用いられる方法以外の方法で使用したものとすることはできない。

そうすると、右(1)の商標の登録がなされた時点から、小僧寿し本部は、右(1)の標章については勿論のこと、同(2)ないし(6)の各標章についても、指定商品についてこれを専用する権利を有したものというべきであり、本件商標権の禁止的効力はこれらに及ばないものというべきである。そして、被告が、小僧寿し本部との間でフランチャイズ契約を締結しており、「小僧寿しチェーン」の一員として、フランチャイザーたる小僧寿し本部から、これらの標章を使用することの許諾を受けていることは、当事者間に争いがない。」に改める。

8 同五〇丁裏末行「第七六号証等」を「第七六号証」に改める。

9 同五二丁裏三行目の「商標法三八条一、二項」を「商標法三八条二項」に改める。

10 同五二丁裏末行から同五三丁表二行目までを「そこで右の点について検討する。」に改める。

11 同五五丁裏六行目を削除する。

二  控訴人が当審で択一的に追加した不当利得返還請求について判断する。

被控訴人による原判決添付第二目録記載の各標章及び同第三目録記載(イ)、(エ)、(オ)の各標章の使用が、控訴人の本件商標権を侵害するものでないことは、引用にかかる原判決理由に説示のとおりである。そうすると、右各標章の使用について、被控訴人が控訴人から使用許諾を得たうえで使用料を支払うべきであったのにこれを支払わず、不当の利得を得たとの控訴人の主張の理由がないことは明らかである。また、被控訴人よる原判決添付第三目録(ア)及び(ウ)の各標章の使用が、控訴人の本件商標権の侵害にあたることは、引用にかかる原判決理由に説示のとおりであるが、現実に昭和五五年から同五七年までの間になされた右各標章の使用は、高知県下の二一店舗のうち、正面出入口横のウインドウに右標章(ア)を表示したものと、店舗壁面に右(ウ)の標章を表示したものが各一店舗存在したことが認められるだけであり、他の店舗や被控訴人使用車両には使用されていなかったこと、右の使用も、当時小僧寿し本部の営業努力によって著名なものとなっていた原判決添付第二目録や同第四目録の標章の使用が主であるのに較べて副次的なものであり、小僧寿し本部の商号又は小僧寿しチェーンの営業表示の略称とみる余地があること、本件商標は四国地域において全く使用されておらず、一般需要者の間における知名度がなく、業務上の信用が化体されておらず、右各標章の使用によって、顧客が吸引されたことはないとみられることなどの事実関係に照らすと、被控訴人から控訴人に支払うべき使用料は生じていなかったとみるべきことも、引用にかかる原判決理由に説示のとおりである。

右のほかに、被控訴人が控訴人の本件商標権を侵害するような態様で本判決添付第五目録記載の標章を使用した事実を認めるに足る証拠はない。

そうすると、不当利得の要件である控訴人の損失(使用料相当額の損失)も被控訴人の利得も生じていないこととなるので、その余の点に触れるまでもなく、控訴人の請求は理由がない。

三 控訴人が当審で択一的に追加した「準事務管理」を原因とする利得の引渡請求について判断する。

被控訴人が控訴人の本件標章を権限なくして管理し、これによって使用料相当の利得を得たり、これを傘下の加盟店から収受しているといえないことは、前項にみたところから明らかであるから、その余の点に触れるまでもなく、「準事務管理」を理由として右利得の引渡を求める控訴人の請求は理由がない。

四 よって、原判決は相当であり、本件控訴は理由がないから棄却し、控訴人が当審で追加した各請求もいずれも理由がないからこれを棄却し、控訴費用の負担につき民事訴訟法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

〈省略〉

第四目録

〈省略〉

第五目録

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